ISA LESHKO

余生を謳歌することを許された家畜たち:503CWで撮影された年老いた動物たちのポートレート

10年にわたって年老いた家畜を撮影したこのプロジェクトは、イサ・レシュコがアルツハイマー病に苦しむ母親の介護後、自身の死生観に向き合うことから始まりました。さまざまな食肉および酪農工場の農場から助け出され、サンクチュアリで余生を謳歌できる家畜たちの数は、ごく僅かです。イサは豚、牛、七面鳥、羊らとの絆を築き、ハッセルブラッド503CWのレンズを通して、彼らの個性をフィルムに収めました。

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このプロジェクトで出会った家畜のほぼ全員が、助け出される前に恐ろしい虐待と飼育放棄に耐えてきました。なので、救出された彼らは幸運であると言うのは気が引けます。毎年、世界中で約500億頭の陸上動物が工場で飼育されています。老齢に達するまで生き延びた家畜が目の前にいるのは奇跡にほかなりません。彼らの仲間のほとんどは、生後6か月になる前に亡くなります。高齢の家畜の美しさと尊厳を表現することで、動物が余生を謳歌することが許されない時に喪失するものを人々に考えてもらいたいのです。

イサ・レシュコ

年を重ねることに向き合い、情熱を支援運動へ注ぐ

年を取ることを恐れたイサは、老化への恐怖に立ち向かうために、高齢の家畜の写真を撮り始めました。これらの動物と出会い、彼らの辛い過去を知ると、このプロジェクトは後に声なき動物の権利を熱心に訴える支援運動となりました。米国中の救助された家畜の終の住処のサンクチュアリを旅し、彼女は彼らの家の芝生で多くのポートレートを撮影しました。

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アッシュ、ブロードブレストホワイト・ターキー、8才

アッシュは養鶏工場の生存者でした。多くの救助された動物と同様に、彼女がファームサンクチュアリにやってくる前の人生についてはあまり知られていません。しかし、彼女の体には、工場の農場で飼育されていたという明らかな証拠が見られました。彼女のくちばしの先端は切断され、彼女の中足の指は部分的に切られていました。

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ベッシー、ホルスタイン牛、20才

ベッシーは、商業酪農場で乳牛として過ごした人生の最初の4年の間に、繰り返し子どもを産まされました。ほとんどの引退した乳牛は屠殺され、その肉はハンバーガーの肉やペットフードになります。ベッシーは食肉処理場に向かう途中で救助されました。

彼らの環境で撮影する

撮影の前にできるだけ動物たちが自然体でいられるよう、イサは彼らとの関係を築きました。つまり、動物の近くの地面に何時間も横たわって、動物に彼女の存在を慣れさせました。 「私は彼らのポートレートを撮影したかったのです。私の存在に対する彼らの反応を写真に収めたくありませんでした」とイサは話します。

スタジオでは撮影しませんでした。代わりに、彼女は動物たちの環境下で撮影しました。機器を最小限に抑え、光は自然光のみ使用しました。これは、暗い納屋での撮影時には、厳しい場合もあります。「私は普段、三脚を使用せず、代わりに膝や地面でカメラを安定させます。 スタジオで動物の写真を撮っていたら、私の仕事は確かに簡単だったでしょう。 でも、それだと、彼らではなく私の条件で撮影することを彼らに課してしまいます。」とイサは説明します。

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バイオレット、ミニブタ、12才

後脚が部分的に麻痺した状態で生まれたバイオレットは、飼い主が彼女の障害に適切に対応できなかったため、サンクチュアリに引き渡されました。

ボガート、羊、16才

ボガートはカリフォルニア沖のサンタクルス島で仲間の群れと自由に歩き回っていました。 ボガートと群れの仲間は、国立公園局から害獣と見なされ、駆逐されるところを助け出されました。

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農場生活への適応

工業都市のニュージャージーで育ったイサは、「田舎スタイル」の生活に慣れていませんでした。彼女がプロジェクトを始めた頃、農場の門のラッチを外す方法すら知りませんでした。このプロジェクトの終わりには、これまでの自分の殻を破り、被写体の動物たちが快適に感じるよう、動物の糞の中に横たわって、小さな虫がウヨウヨ這う状態での撮影でもこなしました。「納屋で一日過ごすと、体は汚れ、汗まみれで、時にはダニだらけです。撮影で動物と目の高さを合わせるために体を捻るため、筋肉痛と関節痛が酷いです。その日に出会った動物と同じくらい年をとったと感じます。私のポートレートは、被写体の動物たちと私自身のさまざまな環境・状況に対しても適応し、生き延びる力の証なのです。」とイサは語ります。

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バディ、アパルーサ馬、28才

バディは視力を失った後、飼い主が適切に世話することができなくなり、サンクチュアリに引き渡されました。衰弱するパニック発作に苦しみ、克服するのに何ヶ月もの訓練が必要でした。またバディはブドウ膜炎にひどく苦しんでいました。彼はすでに目が見えなかったので、痛みを伴う状態を和らげるため、目を摘出しました。

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年齢不明のこのオンドリは、養鶏工場の生存者でした。

このプロジェクトでは、私のお気に入りのカメラであり、詳細なネガを生成するハッセルブラッド503CWを使用しました。フィルムの各ロールは12フレームしかないため、カメラにフィルムを装填するために頻繁に休みを取る必要があります。このカメラが比較的ゆっくりと意図的な撮影を私に強いるところが好きです。

テレサ、ヨークシャー豚、13才

テレサは食肉処理場に向かう途中で救助されました。テレサはノースカロライナ州の養豚工場で飼育されていました。生後6か月で、彼女はペンシルベニア州の食肉処理場に向かう混雑したトレーラーに乗せられました。途中、運転手はワシントンDCのバーに立ち寄り、3階建てのトラックを街の通りに駐車しました。豚たちは夏の暑さの中で何時間も冷房も水もなしで放置されました。その後の数時間で、ワシントン・ヒューマンソサエティには、トラックから大きな鳴き声が聞こえることを心配した人から多くの電話が寄せられました。 法執行機関がトラックを押収し、メリーランド州プールズビルのポプラ・スプリングス動物保護区に運びました。救助後、テレサはニューヨーク州ワトキンスグレンのファームサンクチュアリに移り、そこで残りの人生を過ごしました。

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ヴァレンティノ、ホルスタイン牛、19才

ヴァレンティノは、地元の商業酪農場で生まれた後、死にかけている状態で、サンクチュアリに引き渡されました。

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イザヤ、フィンシープ、12才

イザヤは残酷な研究の一環から救出されました。彼は生後8か月間小さな檻に入れられ、その結果、重度の関節炎を発症しました。

イサ・レシュコについて

アメリカのフォトグラファー、イサ・レシュコはライティングに興味を持ち20代をフリーランスの執筆者として過ごした後、写真家としての道を歩み始めました。ペンシルベニア州のハーバーフォード大学で、神経科学と認知心理学を学び、2年間研究助手として働いた後、学界を離れて、テック業界で働きました。一日15時間労働のdot.comスタートアップ企業のいくつかで働きましたが、30代の初めに自分自身が燃え尽きたことに気づきました。趣味を探していたイサは、写真入門コースを受講して技能に夢中になり、以来、その活躍ぶりは歴史となりました。現在、彼女の作品は年を重ねることや動物の権利などのテーマに焦点を当てています。彼女のAllowed to Grow Old(余生を謳歌することを許された家畜たち)シリーズは、ボストングローブ、ガーディアン、ニューヨークタイムズなど多くのメディアに取り上げられました。昨年、シカゴ大学出版局は彼女の最初のモノグラフ、Allowed to Grow Old:Portraits of Elderly Rescued Farm Animalsを出版しました。これには、活動家のジーン・バウア、ニューヨークタイムズのベストセラー作家のシー・モントゴメリー、キュレーターのアン・ウェルクス・タッカーによるエッセイも含まれています。現在第2版の印刷が行われているこの本は、Buzzfeedによる2019年のベスト写真集のひとつに選ばれ、ニューヨークタイムズ2019ホリデーギフトガイドのお薦めコーヒーテーブルブックにも選ばれました。イサ・レシュコの詳細は、こちらをご覧ください。

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