Hasselblad Heroine

Lydia Winters


ストーリーテラーから写真家へ


リディア・ウィンターズがMinecraftを生み出したMojang Studiosで働き始めた時、彼女は会社の七人目の従業員であり、また初の女性従業員でした。今では彼女は世界中で知られることになったゲームのチーフ・ストーリーテラーとして数百万の視聴者の前でオンライン講演を行うまでになりました。

しかしその一方で、リディアにはこの数年間、興味を注いできた活動がありました。日中の仕事のかたわら、主に時計を被写体にブツ撮りの撮影を行っているのです。ソーシャル世代の一員として、彼女は自身をブランドとしてマーケティングし、写真界の中に地位を築きたいと考えています。そして彼女にはそのために完璧なバックグラウンドとツールがあるのです。

リディアはどのようにストーリーテリングの道に進んだのか、これから撮る写真についての展望、そしてブツ撮りのインスピレーションの源や自身をブランドとして確立することの大切さについて語ります。


ストーリーテリングと写真の関係性

ストーリーテラーという肩書は、「ソーシャルメディアマネージャー」や「コンテンツストラテジスト」に似ています。十数年前にはそれらの職業は存在すらしなかったのです。しかしリディアにとっては、そのような真新しい世界に飛び込んでいくことも、自らの創造性を発揮するための一つの選択にすぎませんでした。

「私は常に創造性を大事に生きてきましたし、それによっていくつかの変わった経歴を得ることになりました。小学校教師、フォトグラファー、そしてもう10年になるゲーム業界での仕事です」

会社の物語にまつわる面を束ねること、そして写真で物語を作り上げることは、無関係ではありません。リディアが今の仕事と並行して写真に夢中になっていることは驚くことではないでしょう。「写真とストーリーテリングは私の中で複雑に絡まっています。母は私にいつも、あなたには写真向きの目がある、と言ってくれましたが、今ではそれは物語を語ることにもつながると気づきました」

「私はそれらを切り離そうとしたことはないし、する必要もありません。そのことこそが私の写真のスタイルとなっているからです。写真を始めてから長い間、他の素晴らしいフォトグラファーたちのスタイルやトレンドを追おうと必死でした」

「でも自分自身の創った物語を撮ることにして以来、もう一度写真が好きになっただけでなく、写真に自分のスタイルが表れていることにようやくとどりつきました。他の人を真似たり、比較したりすることで一生懸命な時は、自分自身のやり方を見つけ出すことはできないのです」

ブツ撮り写真への道

リディアは時間をかけて写真の世界に道を見出しましたが、そこから時計を撮影することに専念するようになるのはさらにしばらくしてからでした。パンデミックが起きてから多くの人がそうであったのと同じように、自らの創造性を発揮する新しい方法を模索している時に、この分野に対する自らの情熱に気づいたのです。「この数年間でいくつか作品のプロジェクトを完成させましたが、特定の被写体や媒体に絞って撮影することが好きなことがわかりました」と説明します。「その頃、外に出る理由とクリエイティブでいるための刺激を得るために花の写真を撮り始めました。そこで自分は人物を撮るよりも物を撮る方が好きだということに気づきました」

「その時初めて、自分の写真の中に明確なスタイルというものが表れていることを感じました。スウェーデンについて一つ言えることは、冬の間はどこにも花が無いということです。2021年の二月、腕時計を一つ手にとって写真に収めてみました。そしてブツ撮りこそが自分の写真と時計、ストーリーテリングへの情熱を叶えてくれるものだと分かったのです」

「私の作品を目にする人が、そこに好奇心やインスピレーションを感じて欲しいと思っています。私は撮影の舞台裏を公開し、自らの手法で人々が驚いてくれることや、自分でも私のコツに習って撮影してくれることを楽しんでいます」

「私の作品の完成形と、舞台裏の様子が合わさることで人々がもっと写真を撮るきっかけになるかもしれないと考えるとワクワクします」

よいブツ撮り写真を作るには

よい静物撮影に大切なことは被写体を見せることと、作品全体に流れる美学を生み出すことのバランスをとることだとリディアは言います。「そこがまさにブツ撮り写真とポートレート撮影が似ている点だと思います」

「私は一つ一つの時計にポートレート撮影のように挑みます。どの部分の特徴を強調し、どのように背景から浮かび上がらせ存在感を出すのか、そして周囲がどのように物語を形成するかを考えるのです。

腕時計というのは複雑で様々なディテールを持った被写体である一方、リディアは自らの周りにある要素のディテールからインスピレーションをもらいます。「自然やテクスチャー、気持ち、色。こういったものから普段気づかれないようなディテールを探します。マクロ撮影や、腕時計の撮影を楽しめるのもこのためです。似たような被写体を撮る時、細かなディテールこそが構図などの際に重要になってきます」

自身をブランドとして築く

自分の存在や名前がブランドとなることの重要性は商品となる写真を産み続けることと変わりません。「自らをただの会社ではなくブランドとして確立させることは欠かせません。ここでいうブランドというのはゲシュタルト、つまり誰かがその会社に覚える形のない気持ちそのものです」

「商品やサービスのことだけでなく、それらをどのように描写するか、誰とともにパートナーシップを結ぶか、顧客とどのように話すか、全体を通してどのように行動するのか。ブランドとはつまりあなたが行うこと全ての和であり、どのように受け取られているか、ということです。個人としては自分自身にどれだけ素直で、信じるもののために行動を起こし、そこから生まれる作品はあなたについて何を伝えているか、ということです」

今の時代、SNSが提示してくる仕事のオファーや宣伝の機会は、これからポートフォリオを作り、クライアントを得ようする新進気鋭のフォトグラファーにとっては新しい世界の広がりの入り口となるものです。

リディアは腕時計を撮った作品をInstagramに掲載することでこれを実現しましたが、次はYoutubeのチャンネルもパートナーと一緒に開設しようとしています。「私とパートナーは多くの趣味を共にしていますが、その中には時計と写真も含まれています」

「一緒に動画コンテンツをつくる話は何度もしてきましたが、ちょうどよい題材を見つけるまでに至りませんでした。これから作るものはある時は時計について、またある時は写真について、そして時計の撮影について取り上げるものになるでしょう」

「共にクリエイティブに過ごし、お互いの何年もかけて培ったスキルを活かして他の人々に教える面白い方法だと思います。創作に関する見方や、写真のスタイルは全く異なりますが、それがお互いを補い合い、よいバランスになるのです」

Youtubeチャンネルで主演するというのは普段カメラの前ではなく後ろに立つことを選んでいる人間には怖いことでもあるかもしれません。しかしリディアはMinecraftのショーで何年にも渡りプレゼンテーションのスキルを磨いてきました。それでもカメラの前でリラックスしているように見せるだけでも努力と時間が必要だと言います。

「Minecraftのショーでも、人前に立つ時はとても緊張すると言うと驚く人がいます。ステージの上に立つと、緊張は興奮へと変わります。私がカメラの前で立っている時も自然に見えると言ってくれる人もたくさんいますが、実際には何年もの訓練によるものです」

「小学校教師だった経歴もプレゼンテーションのスキルに役立っているかもしれません。誰かが自然に何かをやっているように見えるということは、実際には多くの努力を払ってそのように見せているということです。自分の古い動画を見返すと、はっきりと良い方に進化していることを感じます。いつでも前回より少しでも改善したいと思っているのです」

「ボーイズクラブ」の終焉

ゲーム業界で働く女性として、リディアはその場にいる中のマイノリティになるということも少なくありません。しかしそのような時代も終わりを迎えつつあり、それはどのような人にとってもポジティブな変化だと信じています。

「私の願いはより多くの女性と有色人種の人が写真業界に加わることです。より多様性のある、様々な声を代弁する写真が増えることで、より新しいアイデア、哲学、視点、そしてストーリーが生まれるようになるからです」

「ボーイスクラブで男性だけが社交していた時代は過去になりました。多くの場合、女性の方が厳しいハードルを超えないと技術とノウハウを持ったグループに加わることができませんでした。私はそれをゲーム、時計、写真、すべての世界で見てきました」

「そしてより多くの女性を迎えるためには、コミュニティーとしてより開かれたものになり、男性も支援者となり、様々な知識を共有するようにならないといけません」

自らのスタイルに合うカメラを選ぶ

趣味の写真からプロフェッショナルにステップアップするためには、そのための道具選びも重要です。そしてリディアは、ブツ撮りのために完璧なハッセルブラッドのカメラに出会いました。「ハッセルブラッドのセットは私の写真を変化させるのに大いに役立ちました。中判での撮影を通じて、より目的を明確にし、詳細であることを学びました」

「自分の作品は機材によって定義されるものではありませんが、自分の使う道具を愛することができれば、よりたくさん撮影したいと思うようになります。私はハッセルブラッドのユーザーインターフェースに夢中になっています。簡潔でわかりやすいデザインは私が一番やりたいことだけに集中させてくれ、複雑なメニューに気を取られるということがありません」

「ハッセルブラッドと出会い、やっと私は自らの写真哲学とスタイルに語りかけ、創作意欲をインスパイアしてくれるカメラを見つけました」

彼女のハッセルブラッドとハッセルブラッド ヒロインへの思い入れは、最初のヒロインにまで遡ります。「私は2019年のハッセルブラッド ヒロイン以来このプログラムを追ってきました」

「Anna Devis と Maria Svarbonaの作風には見た瞬間から惹かれました。どちらもイメージの中に他にないスタイルとストーリーテリングの強度を持っていました。」

「素晴らしい女性フォトグラファーを発見し、刺激を受けるということは他のカメラメーカーから得たことがないものでした。毎年、新たなヒロインの登場を待ち望んでいましたが、今年は自分もその一員となれたことを非常に嬉しく思います」

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