Hasselblad Heroine

Annie Spratt


大自然の感触を捉える


写真コミュニティは創作のための大切な一部を担っています。 新進気鋭のフォトグラファーが自らの情熱をその生活の糧とすることを望むとき、多くの場合この競争が激しく、しのぎを削り合う業界で助けとなるのは他者のアドバイスです。

アニー・スプラットはインターネットが我々の毎日の暮らしやキャリアに重要な位置を占めるに伴う、こういったコミュニティと21世紀におけるその進化に大きく関わっています。

彼女のUnsplashでの仕事は、フォトグラファーが世界最大規模の写真共有ウェブサイトへ無料で自らの作品をシェアできるというアイデアから始まりました。Unsplashを通して、彼女自身もプロの写真家としての道を歩み始めたのです。

アニーはキャリアを通じ、写真コミュニティが持つ力とオンラインの意見の否定的な面と両方を目撃してきました。彼女はネガティブなコメントへの対処やどのように創作と8人の子供との家庭を両立させるか、そして写真をどのように収入を得る手段へと転じたか、その知恵を共有しています。


“感触”あるネイチャー写真を創る

アニーは主にネイチャー写真を撮ることに惹かれ、その作品の多くはUnsplashのウェブサイトから無償で使用できます。それらの作品はのべ90億回以上閲覧され、合計5000万回近くダウンロードされています。彼女は自らのスタイルを表現するとすれば、自然に湧き起こる感情という言葉を使います。「わたしは何を捉えるか事前に決めるということはほとんどしません。自身のムードとその時の雰囲気に身を任せるのが好きなのです」

「他人にわかりやすく説明するために作品を作ってはいないので、制作のプロセスに完全な自由を得ています。これは私にとってとても満足できることです」

アニーが現在の拠点としているニューフォレスト国立公園はフォトジェニックで手付かずの自然を捉えるのに完璧な場所です。「ニューフォレストの南イングランドの美しい自然に囲まれて生活していると、自然と季節の移ろいに制作のインスピレーションを刺激されずにはいられません」

「この田舎で過ごす時間はとても地に足がついていると感じます。インスピレーション過多やインポスター症候群に襲われそうな時も屋外で過ごす時間が救いになります」

彼女の写真達のテーマはほとんど気まぐれとも言えますが、彼女はそれを自らの視点で、良いネイチャー写真には見る人間の感じる感触が、そこから呼び起こされる感情の種類を問わず、含まれているべきだ、と説明します。「これは少し無味乾燥に聞こえるかもしれませんが、個人的には感触を捉える、というのが良いネイチャー写真の根源だと思います(そして全ての写真においても!)」

「もちろん目に触れた時の感触・感じるものというのは作品の雰囲気を操作することで創り上げることもできますが、自然にも起きるものです。これは運に大きく左右されますが、素晴らしい偶然が起き完璧な条件が整った時、特別な瞬間が訪れます」

写真とアドバイスを共有するコミュニティを築く

アニーは初めからフォトグラファーを目指していたわけではありませんでした。最初は人々にUnsplashに載せた写真を楽しんで欲しいという一心だったのです。

現在に至っても、プリントの販売のロイヤルティから得るフルタイムの収入はあっても、彼女は自身を伝統的な意味でのフルタイムの写真家だとは思っていません。Unsplashにおける活動が彼女が心から情熱を向けていることであり、無料での共有サイトではありますが、そこから多くの機会を得ることができることを彼女の活動が物語っています。

「私は2015年からUnsplashで自分の写真を無料で公開してきました。もしかしたらあなたもどこかで私の写真を見ているかもしれません。もちろん、それが私の作品だと知る由はないでしょうが、私はそれでも満足しています。多くの人に自分の作品が届いているという事実は私にとって十分価値があるのです」

彼女の活動はやがて人々に目に留まり、収入の元となりました。「写真を無料で掲載し始めて数年、いくつかのプリント販売会社がコンタクトしてきて、ロイヤリティの契約を提案してきたのです」

「正直に言うと最初は懐疑的でしたが、少し挑戦してみようかと思ったのです。そしてそれは大成功でした。今ではこのような会社いくつかと働いています。候補となる写真を年一回向こうに送り、四半期ごとに印税が振り込まれます。それは今ではフルタイムの仕事の年収に匹敵するほどになりました」

彼女は自分でプリントを販売することも試みましたが、プリント販売会社のリソースを使用することのほうが利点が大きいことに気づきました。「一番の利点はより大きな販売店やグローバルなチェーンを持っており、アートショーなどにも参加して所属アーティストをプロモーションしてくれるということです。私が個人として活動しても得られないエネルギーとリソースです」

挑戦と変化を好まない人々に立ち向かう

Unsplashのようなプラットフォームはフォトグラファーにとって多くの利点がある一方、このような存在を支持しない人々も一定数います。写真に纏わるフォーラムはしばしばネガティブな意見がはこびり、もっとも打たれ強いようなフォトグラファーですら落ち込ませるほどです。

アニーは一つの例として一番最初にオンラインの意見により自分に自信を失くした時をあげます。「もしかして写真こそが私の生きる道なのではないかと感じ始めた頃、いくつかのフォーラムで意見を求めました。この時返ってきた反応は非常に落胆するものでした、例えば、“もし暗室作業から正しく写真の基礎を学んでいないならば、あなたはまともな写真家にはなれない”などと言われたのです」

「写真を無料で公開し始めたことで人目に触れることが多くなるにつれ、何人かのより上の年代の男性フォトグラファー(そのうちの数人は非常に多数のフォロワーもいました)は積極的に自分たちの考えを公表しました。彼らが言うには、私が無料で作品を共有していることがプロフェッショナルの仕事を奪っているということでした。でも下の年代の男性フォトグラファーが私に同意する姿を見ると彼らも考えを変えたことが、一層辛いことでした」

「このような反応というのは一つの業界が進化するにつれ、中の人々が変化を恐れているのだと思います。クリエイティブであるはずの業界の中に、新しい創作へのアプローチにここまで立ちはだかる人々がいるのはとても皮肉に感じられました」

自分のキャリアの初期に公のフォーラムに作品を載せることはとても怖いかもしれません。特に匿名の人々が意見を言えるインターネットというのはより挑戦に感じられるでしょう。

しかしアニーの場合、自信を取り戻す源は創作の源に戻ることで見つかりました。カメラを手にすることで、気持ちに折り合いをつけたのです。「私の場合、半年近く自分がやっていることが正しいのか悩み、落ち込んでいました。愛していることを行っているはずが自身が悪者のように感じさせられ、自己肯定感や自信をすっかりなくしていました」

「それでも地元の森を探索しながら、写真のプロセスを楽しんでいるうちに、ネガティブな体験から得た気持ちに折り合いをつけられたのです。写真はその時の自分にとって有意義なカタルシスと言えるものでした」

Unsplashは今ではとてつもなく成功したプラットフォームとなり、写真家にとって自らの作品を生活の糧とするため全く新しいきっかけとしての地位を確立しました。2021年にはGetty Imagesの傘下となり、さらに目標を追い求めています。このような新たなアプローチはつまるところ、業界全体にとってもポジティブなものとなったのです。

写真界における女性達

自身が写真フォーラムやコミュニティで体験した困難にも関わらず、アニーは写真業界に多くの女性が進出することで多くのポジティブなことが起きていると言います。「この10年の間に間違いなく女性フォトグラファー達の存在感は増しています」と彼女は語ります。

「私が他の女性フォトグラファーと共に働いた経験から言うと、多くの場合自らのスキルや知識やつながりを形にするにあたってよりコラボレーションを大切にし、コミュニティに根ざしたアプローチを行っているように感じます。ソーシャルメディアがこれらを可能にしたことは間違い無いでしょう」

彼女は今の時代こそが写真を始めるに最適だと信じています。たとえそれが若い時に自分がなりたいものだと思った時ほどシンプルな道のりではないとしても、です。「写真がこれほど誰にも手が届くものだったことは未だかつてありませんでした。そして業界の中で活躍する女性達の姿を知らしめるにもこれほど適した時代もありませんでした」

「伝統的なルートとは異なる方法でプロの写真家として活動している例にスポットを当てることは、あらゆるバックグラウンドを持つ女性達に写真を趣味として、そしてキャリアとして検討することを奨励するものです」

「私の場合、趣味として始めたのが気づけば写真業界の中にいました。Unsplashでの仕事を通じて毎週数千枚の写真を見ますが、趣味として写真を撮っている人々の作品にクオリティには常に驚かされ続けています」

家庭生活との両立

彼女が写真家としてのキャリアを形成する裏では、彼女は8人の子供の子育てもしていました。「8人もの子供がいるということは、フルタイムの母親業を何年もしていたということです。一番下の子供が学校に通い始めたのを機に、同じような立場の人たちと繋がりたくてブログを始めました」

「ブログのための写真を撮り始めたら何かがハマり、自分が心から楽しめるものを発見したことに気がつきました」

「2015年にUnsplashに応募した時も、持っていたのはこの独学のスキルだけでした。40歳の誕生日を目前にして新たなキャリアを始めるのはとても強力な体験でした」

母親であろうが、父親であろうが、どんな親にとっても8人の子供を持ちながら家庭と仕事を両立することは困難でしょう。アニーはそのコツは人生のどちらの面でも自分の期待をオープンにすることだと言います。

「Unsplashでの仕事に関しては、常に在宅で仕事をし、フルタイムの仕事でしたが勤務時間はフレックスです。家庭生活のためには最適なキャリアでした」

「在宅で働くことで家族も私のキャリアに親近感を持ってくれましたし、私が何をしているかを知って、どんなプロジェクトに携わっているかも理解しています。これによって家庭と仕事の摩擦も最小限になりました」

ハッセルブラッドのフィルムとデジタル両方の愛好者

アニーはフィルム、デジタルどちらでも作品を撮影するため、彼女がハッセルブラッドの907X 50Cを手にしたのは自然なことでした。「写真を撮ること、人の写真を評価することで多くの時間を過ごす私にとって、画像のクオリティには少なからず拘りが生まれました」

「フィルムを撮り始めた時、その撮影のプロセスはとても楽しかったものの、クオリティではいつもデジタルに軍配が上がるように感じていました。一年以上中古カメラを探し回った結果、手元には30個以上のコレクションが残りました」

「今ではフィルムはハッセルブラッドの500C/M、デジタルは907X 50Cで撮影していますが、これは両方の世界のベストであり、40年以上に渡る様々な年代の製品が共に使えるというのはハッセルブラッドの絶え間ない革新が形になっていると感じます」

「フィルムとデジタルを切り替えることも非常に簡単で、CFV II 50Cによって私が所有している様々なクラシックレンズを5000万画素のセンサーで使用することを可能にするのです」

ハッセルブラッド ヒロインのもっとも喜ばしいことを選ぶのは難しいとアニーは言いますが、もし一つを選ぶとしたら「プロかアマチュアを問わず、女性フォトグラファー達、ひいては業界の美学と多様性を映し出すこと」だと彼女は語ります。

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