中判デジタルで今の時代を切り取る

濱村健誉/Kiyotaka Hamamura

2020-7-22

Hasselblad 553ELX、500C/M, 555ELD, H6D-50c, X1D ll 50Cと歴代のハッセルブラッド でファッションを中心にご活躍されている濱村健誉さん。作品作りには、個性や見たことがない物を生み出すことはもちろん、時代性が大切と語ります。一つののアプローチとして、その時代のカメラで撮ることも大事にしている濱村さんが、今中判デジタルを選ぶ意味とは?

J.PRESS ORIGINALS (Hasselblad H6D-50C/HC50mm)

ご自身とカメラの出会いを教えてください。

19歳の時ファッションの専門学校に在学していたんですが、週一回写真の授業があり、カメラを自分で用意する必要がありました。祖父の趣味が写真撮影で、本格的な一眼レフを持っていたのでそれを借りて撮り出したのが最初のカメラとの出会いです。

自分で作った服を友人に着てもらって撮影して、まとまったらファイルに作品を入れていくという事をしばらくしていく中で撮影の方に自分の興味が偏っていき、自分が作ったもの以外のものも撮り始めました。当時は完全に地に足がついていないと言うか、自分の頭の中に描いていることにしか興味がなかったので、日常や目の前で起こっている事をそのまま対象にする事はなく、作り込んだり、過度にフィルターをかけたりしていました。その手法が間違っているとは思いませんが、自分には写真に対しての基礎や土台がない上で小手先でやってる思いはあったので、今の自分が興味が湧く場所でストレートに写真と向き合いたいと思い、21歳の時にロンドンに移住して本格的に撮り始めました。

J.PRESS ORIGINALS (Hasselblad H6D-50C/HC50mm)

ハッセルブラッドのカメラはどのような経緯で使い始めたのですか?

ロンドンで出会ったポーランド人の女の子の影響です。ロンドンでは毎日ライブハウスに行ってミュージシャンやそこに集まる人達、彼らの日常を写真に撮っていました。片言の英語だったので、相手が何を喋ってるかも分からない中、とにかく話を合わせたフリをして家について行って写真を撮ったりしてました。そんな時ライブハウスでよく見かけていた同じようにカメラを首から下げたポーランド人の女の子に「一緒に撮ろう」と話しかけられ、昼夜一緒に写真を撮るようになりました。その子が使っていたのがHasselblad 500C/Mです。その子は早口だったので特に何を言ってるか分からず、お互い写真を撮って見せ合うコミュニケーション方法でした。当時の僕はカメラに無知でHasselbladを知らず、かっこいいカメラだなぁ、位に思っていたんですが、その子の現像した写真の仕上がりを見て感動して、いつかはHasselbladが欲しいと思いました。その後お金を貯めて中古のHasselblad553ELXを購入しました。それから自分の写真の変化と共に500C/M, 555ELD, H6D-50c, X1D ll 50Cという流れで使用しています。

J.PRESS ORIGINALS (Hasselblad H6D-50C/HC80mm)

ハッセルブラッドの製品の気に入っている点を教えてください。

僕は日中シンクロで撮る事が多いんですが、Hasselbladはレンズシャッターなので1/2000まで同調できる事です。晴天時に大型のストロボを用意しなくてもいつもの表現ができます。

また4x5でのあおり撮影もよくするんですが、H6Dにチルトシフトアダプターを介してHC80mmをつけて撮る事によって、同じ表現を中判デジタルでもできる事は大きいです。アダプターを介すことで同じレンズで三脚を据えてじっくり撮る撮影も、機動力の必要な撮影も出来る。ロケ撮影時などに同じクオリティでシーンによってカメラを使い分けたり、レンズの共有が出来る事は撮影をスムーズに進める事と、機材のコンパクトさにも繋がってます。

そしてデザインです。H6DとX1Dを見た時に、初めてHasselbladのカメラを見た時のように、かっこいいカメラだなと思いました。このカメラで撮ってみたい、と思う衝動はフォトグラファーにとってとても大事だと僕は思います。

Them magazine (Righters) (Hasselblad H6D-50C/HC80mm)
Them magazine (Righters) (Hasselblad H6D-50C/HC80mm/Tilt Shift Adapter)

中判デジタルカメラの実力はどのような撮影シーンで実感されますか?

中判デジタルは良くも悪くも目の前の事をストレートに見せる力があると思います。シャープネスに頼らない立体感やラチチュードの広さがそれをなせるんだと思いますが、誤魔化しようがない分一枚一枚に集中できます。僕は作品を作る際に個性や見たことがない物はもちろんですが、時代性が大切だと思っています。それはその時代のカメラで撮る事も一つのアプローチの仕方として大事です。タイポロジー写真から来るベッヒャー派がこぞって大判カメラを使ったように、今中判デジタルを使うことには意味があると思います。

一昔前だと中判デジタルはクオリティは高いが、機動力が無かったり撮影シーンを選びすぎるところがありましたが、最近はそのウィークポイントが大きく改善されていってます。同じような理由で湿板写真からフィルムへ移行していったように、技術の発展で撮れる写真の幅が広がり、新しい表現が生まれると思っているので、僕は作品撮影では特に中判デジタルを使うようにしています。

Them magazine (Righters) (Hasselblad H6D-50C/HC80mm)

今後のご予定や目標などあれば、教えてください。

クジラを撮りたいですね。生まれ育った下関はクジラとの歴史が深いので、そこを掘り下げていけたらと。既に撮り始めてはいるんですが、ライフワークとしてゆっくり計画していきたいと思ってます。

直近ですと何年も時間をかけて撮っていた作品が年内に完成します。僕は頭の中の想像をどこまで現実世界と絡めてリアルに作っていけるかが好きで、今回の作品は特にその要素を表現できたかなと思います。展示や写真集にして皆さんに見ていただけたらと思っています。

VEIN (Hasselblad H6D-50C/HC80mm)

プロフィール

濱村健誉/Kiyotaka Hamamura

1986年山口県下関市生まれ。文化服装学院を卒業後ロンドンへ渡英。

ドキュメンタリーを中心に撮影後、帰国しイイノスタジオで勤務。

その後ニューヨークへ渡米。自身のアートワークとMagnum Photosでのインターンを経て、現在東京をベースに活動中。

Website https://kiyotakahamamura.com

Instagram @kiyotakahamamura