SEIJI SHIRONO

ハッセルブラッドのHシステム

マルチショットで日本の歴史的遺産を

後世へ継承する


国宝 阿弥陀如来坐像 平等院鳳凰堂内部 平安時代 1053 年 ハッセルブラッドH4D-200MS で撮影

城野さんの写真との出会いを教えてください。

写真との出会いは13 歳。一眼レフカメラのファインダーを通して見えたアウトフォーカスの世界に惹かれ、徐々に写真の世界へ興味を深めるようになりました。カメラにはモノクロームのフィルムを詰め、身近に咲く草花を撮影しました。休日の度に叔父の営む工場の暗室設備を借り、フィルムの現像やプリントの制作をしていました。

モノクロームの写真は、ものの記憶と重なり色を喚起させます。記憶の中にある花の色まで蘇ります。記憶を留める写真の力に今も変わること無く魅力を感じています。

中でも、歴史的遺産を撮影するかなり専門的な分野でご活躍されていますが、この分野に進むきっかけは何だったのですか?

進むべき方向を考えあぐねていた時に恩師から、写真家として歩むには地味で華やかさはないけれど、長く続けられる仕事だと歴史的遺産の撮影を勧めてくださった。その勧めをきっかけに歴史的遺産の撮影分野へ歩みをはじめました。

歴史的遺産の撮影の面白さや醍醐味、または困難な点や苦労することなどがあれば、教えてください。

歴史的遺産の写真は報道写真や科学写真と同様で、脚色せず事実をありのまま写し、そして残し伝える写真の持つ元来の役割を発揮すべき分野です。有形文化財・無形文化財など被写体は多岐に渡り、撮影者はポートレートフォト、ランドスケープフォト、インダストリアルフォト、サイエンスフォト、ドキュメンタリーフォト、キャンディッド・フォトのテクニックを求められます。

多くの撮影スキルを要する分野でありながら、撮影者としての個性を写真の表現に反映できません。分かりやすく例えると、立体物は陰影をつけると印象的に見えますが、展覧会の宣伝に使うことは出来ても、歴史的遺産を継承する写真として相応しいとは言えません。

では、影を付けず均一に光を当て、凹凸もわからない撮影で良いのかと言うと、ダメージや劣化の状態を隠すことになり、それも相応しい方法ではありません。平等院所蔵の国宝鳳凰の写真をご覧いただくとその意味を理解していただけることでしょう。鳳凰はとても複雑な形状をしていますが、金属の材質感と表面に残る鍍金を見せる為に、撮影はダイレクトライトでライティングを行なっています。

複雑な形状でも影を作らず質感を表現する。歴史的遺産は全て唯一無二の存在です。個々の特徴を迅速にそして的確に見いだすことが歴史的遺産の写真家として求められる大切なスキルです。一期一会は歴史的遺産の撮影に最もふさわしい言葉ではないでしょうか。

今回、平等院(平安時代)と丸木美術館(近代)の写真を選んでいただきましたが、それぞれの作品や見所について、教えてください。

国宝 平等院鳳凰堂 正面 平安時代 1053 年 ハッセルブラッド H4D-200MS で撮影

世界遺産、国宝平等院鳳凰堂は、平安時代の創建当初から変わることなく保たれた優美な造形が美しい世界に誇る建造物です。落ち着いた丹土(につち)が目に飛び込みとても美しく印象的です。この色は平等院を中心に多くの人々の英知と試行錯誤を繰り返し、修復作業によって創建当初の彩色へと復されたお披露目の前日に色の記憶を留めるために撮影しました。

平等院鳳凰堂は日の出から約2時間ほどの短い時間、太陽の光を受け屋根の陰を落とすことなく建物を照らし、安置された阿弥陀如来座像の金を輝かせる。写真では対面する池に優美な姿を映していますが、わずかな風でも水面のさざ波で姿はかき消されてしまいます。数日前から悪天候が続き、撮影は厳しいと諦めていました。ところが撮影日当日、晴天で風もなく水面に美しく建物を映してくれました。すかさずマルチショットで撮影、この写真は国宝平等院鳳凰堂の奇跡の瞬間です。

国宝 鳳凰 平安時代 11 世紀 ハッセルブラッド H4D-200MS で撮影

国宝平等院鳳凰堂の屋根に一対の鳳凰が宙を舞うように存在する。写真の国宝鳳凰も平安時代の創建当初から近年まで、風雨にさらされても姿を保ちながら宙に向かって屋根の上に存在した。

現在は環境汚染による劣化から守る為に屋根からは外され、平等院鳳翔館で保存管理と展示が行われている。

複雑で繊細な造形もさることながら、表面に残る鍍金の僅かな輝きが創建当初の姿を喚起させる。

丸木美術館が所蔵する、原爆の図:幽霊は、歴史の記憶を留める重要な絵画作品です。描く材料の入手も困難な状況にありながら、和紙に木炭、墨、コンテなどを使い、丸木ご夫妻が記憶を留めたいと強い想いを込めて描かれた絵画です。この絵に込められた想いは、モノクロームのグラデーションを見せるだけでは伝わりません。和紙に僅かに暖色系の色を匂わせ、荒々しく強く描いた線や穏やかな濃淡を材料を使い分けながら描いています。是非、写真を拡大して原爆の図へ込めた丸木御夫妻の想いを感じ、描写や細かなトーンをご覧ください。

作品のどちらもハッセルブラッドのプロフェッショナル向けに設計されたH システムのマルチショット(*)で撮影されています。(平等院(H4D−200MS で撮影)、丸木美術館(H6D-400Ms で撮影))城野さんは、このマルチショットを長年愛用されていますが、このカメラで歴史的遺産を撮影するメリットは何だとお考えですか?

ハッセルブラッドのカメラでのマルチショット撮影は、モノクロームの豊かな階調に色が伴い滑らかなトーンの写真に仕上がる。歴史的遺産で重視するディープシャドーやハイライトでもトーンが消えることも色が埋もれることもない。RAWデータも過剰な補正がされていないので、Phocus でトーンカーブのコントロールをすれば思い通りに仕上げられる。

(*)マルチショットテクノロジーとは、ピエゾアクチュエーターを用いてセンサーを非常に正確に1 ピクセルまたは1/2 ピクセル移動させることで、シングルショットのカメラに比べてより多くの色情報を記録できる技術で、芸術作品や宝石、高級車など、最高の描写が必要とされる被写体の微妙なニュアンスを捉えることができます。詳しくはこちら

今後、歴史的遺産のデジタルアーカイブ化がますます進むと思われますが、将来に向けての展望をお聞かせください。

歴史的遺産を護り伝えることは簡単ではありません。

劣化をしたら修理をする、脈々とその行為を繰り返しているのですが、修理をするためには様々なわからないことを調べ制作技法を解明し、修復材料を作ることも必要になります。歴史的遺産を護ることは年々状況が厳しくなっています。

仕事の重要性は高いのですが、無情にも経済は伴わず、後継者の不足や修復材料の調達が厳しくなっていることも避けられない事実です。護られ継承された歴史的遺産は脆弱なものが多く、人の眼に触れることも少ないことから継承された遺産を知るきっかけも得られない状況では、遺産の重要度を共有することも難しいと考えます。どのようなものであるかを知り学ぶことによって、オリジナルの存在や価値を共有できれば後生へ継承する意義を理解することが出来ると考えます。写真はその一役を担うひとつの重要なエレメントです。歴史的遺産の様々な情報を持つ写真を加え発展的なデジタルアーカイブを構築すれば、オリジナルと人を繋ぐ役割を担うことが叶うのではないでしょうか。

プロフィール

城野誠治(しろの・せいじ)1964 年, 大阪市生まれ。

日本写真専門学校フォトデザイン学科卒業。

卒業後、1987 年より写真家・土門直視(土門拳の実弟)に師事。

美術作品の材質感や色彩表現を捉える撮影を専門とするが、科学写真撮影による光学調査を行い多くの新知見を捉えている。これまでに、「国宝高松塚古墳壁画」「国宝吉祥天像」「国宝・絹本著色十一面観音像」「国宝源氏物語絵巻」「国宝伴大納言絵巻」「国宝彦根屏風」「国宝燕子花屏風」「動植綵絵」「平等院鳳凰堂」「原爆の図」中華人民共和国河南省洛陽市「龍門石窟」、台湾の台北故宮博物院所蔵「懐素自叙帖」「書譜」など、多数の文化財のアーカイブに関わる撮影や光学調査にかかわり、その結果を出版物として刊行している。

また、フランスBAYEUX にて、高畑勲氏(故)と共に「EMAKIMONO TAPISSERIRDE BAYEUX」展を開催した。

公益財団法人日本写真家協会会員、日本法科学技術学会会員。

主な刊行物

1. 2009 年 9 月 5 日発行 中央公論美術出版 「Light & Color -絵画表現の深層を探る-」

2. 2009 年 11 月 20 日発行 中央公論美術出版 「国宝 伴大納言絵巻」

3. 2011年12 月発行 MUSEE DE LA TAPISSERIE DEBAYEUX 「EMAKIMONO TAPISSERIE DE BAYEUX」

4. 2014 年 5 月 20 日発行 株式会社思文閣出版 「大徳寺伝来五百羅漢図」

5. 2018 年 4 月 31 日発行 ライブアートブックス「Color & Material -日本美術の色と材料-」

6. 2019年3 月 刊行 羽鳥書店 李公麟 五馬図

写真協力

世界遺産 平等院

丸木美術館

Justin Mott

ベトナムへのラブレター

ベトナムを拠点とするフォトグラファーのジャスティン・モットは、今勢いに乗るプロとしての成功の多くを、個人的なプロジェクトから築きました。ジャスティンを過去10年間旅に連れ出した動機は、枯葉剤の壊滅的な被害に苦しむ犠牲者を対象としたフォトジャーナリズム研究でした。

Read more

Dino Kužnik

孤独なアメリカ西部

アメリカ西部に惹かれ、多くの写真を撮り続けているクリエイティブなスロベニア出身の写真家ディーノ・カズニックは、拠点のニューヨークで数か月間のロックダウンを経験後、コロラド、ユタ、アリゾナ、ニューメキシコを横断する2週間のロードトリップに出かけました。中判フィルムでの撮影に慣れ親しんでいたディーノは、X1D II 50CとXCD 45mmおよび90mmの中判デジタルを旅の相棒に選びました。険しい砂漠の風景の自然溢れる地域をドライブしながら撮影したディーノの作品は、私たちを一昔前のアメリカへタイムスリップに連れ出します。

Read more

Tom Oldham

XH コンバーター 0,8でレンズの新しい可能性を開く

907X 50Cで新しいXH コンバーター 0,8を最初に試した一人として、英国のフォトグラファーのトム・オールドハムはギリシャ人のモデルで活動家のビリー・デリオスと驚くべくダイナミックなスタジオセッションを行いました。907X、およびXシステムのカメラでHC/HCDレンズを使用するためのアクセサリーのXHコンバーター 0,8は、より広い画角と、改良された最大絞りを提供し、トムの典型的なポートレート撮影スタイルをf/11からf/1,8に至るワイドな範囲に広げ、驚くほど大胆なビジュアルを作成しました。

Read more

4人の写真家、ガンジス川を行く

ガブリエル・フローレス、ジョー・グリア、ジェレミー・スネル、ダン・トムの4人の写真家は、1億人以上の信者が集まるヒンドゥー教の巡礼「クンブ・メーラ」が行われるインド中部のガンジス川に向かい、ユニークな視点と個々の写真スタイルでこの異文化の旅を記録しました。

Read more

ハッセルブラッド H6D-100c 

日本画の最大規模の展覧会「院展」の図録の作成およびアーカイブ化に活躍

より多くの光を取り込むことができる、一億画素のセンサーを搭載したハッセルブラッド H6D-100cは、高解像度の画質が求められる美術作品の撮影でも多く活躍しています。公益財団法人日本美術院が主催運営している日本画の公募展覧会の院展の図録の作成およびアーカイブ化でもH6D-100cの最高クラスの画質と解像度は、その性能を最大限に発揮しています。

Read more

TOM OLDHAM

クルーナーズの最後

ポートレートフォトグラファーのトム・オールドハムのシリーズで受賞歴のある、「クルナーズの最後(The Last of the Crooners)」は、ロンドン東部にある彼の地元のパブ「パームツリー(The PalmTree)」で出会ったジャズミュージシャンのグループを撮影した作品です。

Read more

Anna Davis and Daniel Rueda

新製品907X 50Cで視覚的世界を広げる

クリエィティブデュオで、ハッセルブラッドアンバサダーのアンナ・デービスとダニエル・ルエダは、新製品907X 50Cの発売を祝い、ハッセルブラッドの長い歴史からインスピレーションを得て、ハッセルブラッドの最も有名な特徴を表現した作品を発表しました。彼ら独自の視覚的世界が広がる、「クローン作成の状況」、「レコードプレーヤーとの融合」、「自身の星座のマッピング」などの各作品はNASAとの協業へも繋がった、ハッセルブラッドカメラの「優れた耐久性」、「クラシックなデザイン」、「テクノロジーの背後にある革新性」を具現化したものです。

Read more

Adam Weist

冒険心を掻き立てるニュージーランドの亜熱帯雨林と活火山

世界が一変した2020年3月、ロサンゼルスを拠点とするフォトグラファーのアダム・ウェイストは、世の中の喧騒から離れ、地球の反対側のニュージーランドの魅惑的で夢のような景色の中にいました。亜熱帯雨林の豪雨の真っ只中から活火山の雪嵐まで、X1D II 50Cで撮影したアダムの作品は、ニュージーランドの美しさを見事に映し出し、風景写真家の憧れの地に私たちを誘います。

Read more