ファインダーの中の憧憬

川原和之

2019-03-18

Tags: V System

写真に興味を抱いたときから、ずっと祖父母ばかり撮っていた。

両親が共働きだったこともあり、幼少期からずっと身近な存在であった祖父母を撮り始めたのはごく自然なことだった。当時は35ミリのフィルムカメラを使っていたが、祖父が大病を患い、祖父の「死」に向かっていく覚悟を感じたことをきっかけに、限りある「生」を残しておきたいと、ハッセルブラッドを手にした。はじめてハッセルブラッドで撮影した写真が手元に届いたときのことは忘れられない。その写真に写る祖父の表情に、今まで意識しなかった存在感を感じ、食事を食べるのも忘れて、ベッドで横になりながら、写真をぼんやりとみていた。

祖父母とは離れて暮らしていたこともあり、実家に帰った時には常に手の届くところにカメラを置き、祖父母と会話しながら撮影する。

ウエストレベルファインダーのハッセルブラッドで撮影するときには、上から覗き込みながら撮影するため、目線が普段より低くなる。

あるとき、ファインダーを通して祖父母を見ていると、幼き少年の頃の眼差しにタイムスリップしたような感覚を覚えた。

懐かしさとともに、湧き上がる祖父母に対する幼き日の想い。

そうか、幼かった頃の僕にとって祖父母は“ヒーロー”のような存在だったんだ。

ハッセルブラッドだったからこそ、思い出せた感情。

それから、僕は祖父母を撮るという行為の中で、ファインダーの中に幼き日の自分を探すようになった。

 

Q: 川原さんの作品を拝見すると、写真の中に漂う暖かさがとても伝わってきます。スキャンやプリントする際に、その色合いなどを意識していらっしゃいますでしょうか。

A:祖父母が暮らす実家はあたり一帯が田園風景に囲まれ、庭の草木や経年変化した畳の黄色など落ち着いたトーンに加えて、祖父母に流れるゆったりとした空気感が出るようにしっとりと柔らかい質感の色合いに仕上がりになるようにフィルムの選択をしています。全体的な仕上がりについては、長年現像をお願いしている信頼できる写真屋さんにおまかせしている部分も多いです。

 

Q: ハッセルブラッドで撮影した写真は空気感があると言われることがありますが、川原さんがハッセルブラッドで一番気に入っていらっしゃる点はどこでしょうか。

A:ファインダー越しに見える世界の美しさと予想を超える描写力の高さです。ファインダーの中でピントが合致した時の高揚感は他のカメラでは味わえない魅力がありますし、立体感のあるレンズの描写力は、出来上がった写真は身近な存在である家族の表情ですら新しい発見に満ちています。

 

Q: 写真を撮り続けることに価値が生まれ、シャッターを切るにつれ、歳月が経ちます。もし振り返ってみると、原点に立ってた自分に一番言いたいことはなんでしょうか。

A:「ありがとう」という言葉しか思いつきません。自分に感謝するというのは変な表現ですが、祖父は5年前に亡くなり、もう撮ることが出来ません。でも、写真を介して何度もまた出会うことができます。そして、祖父母の写真に写る「昔の光」を見るたびに湧き上がる感情は、ともに過ごした時間に対する「ありがとう」の気持ちです。

 

Q: 川原さんは今、大切にされているハッセルブラッドのカメラは後世に残していくお考えでしょうか。

A:現在使用しているハッセルブラッド500C/Mの使用頻度は祖父母を撮ることから娘を撮ることへシフトしていっています。ただ家族アルバムを作っていくという自分の写真への想いは変わりないので、今後も家族との思い出をハッセルブラッドと一緒に記録していきたいと思っています。もし、将来、娘が欲しいと言ってくれたら、プレゼントできるように大切に使っていきたいと思っていますし、それまでフィルムという選択肢が残り続けてくれることを切に願っています。

Author

川原和之

Twitter @kazkawahara
Instagram @kazuyukikawahara

関連記事