<スペシャル インタビュー> 長山一樹 × Hasselblad H6D-50c/100c

長山一樹

2020-06-05

ハッセルブラッドを愛し、ハッセルブラッドで自由な表現にチャレンジし続けるフォトグラファーたちがいる。そんな彼らに、フォトグラファーとしての思い、ハッセルブラッドへの思いなどをインタビュー。 第三回目は、ファッションフォトグラファーとしてさまざまな媒体で活躍する長山一樹さん。

UNIQLO HEATTECH

−フォトグラファーになろうと思ったきっかけを教えてください。

子どもの頃から絵を描くことが好きで、グラフィックデザインやアートディレクションを学べる高校に通っていました。選択授業に写真の授業があって、なんとなく選んでやってみたら「うまいかも?」と自分で思ってしまったんです(笑)。すごく楽しかったですし、そこから一気に「写真の道に行きます!」と突き進んできました。

−ハッセルブラッドとの出会いはいつ頃ですか?

高校卒業後に写真の専門学校に進学したのですが、そこで出会った先生がカールツァイスおたくだったんです。その先生に言われるがまま、コンタックスとカールツァイスを買いました。先生はハッセルブラッドやローライなども持っていて、当時の僕には買えないカメラだったので、ただただ羨ましく思っていました。

専門学校を中退後、スタジオスタッフになったのですが、ハッセルブラッドへの憧れが強すぎて、すぐにローンを組んで503CW を購入したんです。19 歳だったので、親に保証人になってもらって。よく10 代でローンを組むことに不安はなかったかって聞かれるのですが、不安よりも、お金を払ってないのに手元にもらえるってすごいなって思いました(笑)。貯金する間にも、憧れのハッセルブラッドを自分のカメラとして使うことができるわけですから。喜びのほうが大きかったですね。

−デジタルに移行したのはいつ頃ですか?

2007年にフォトグラファーとして独立したのですが、その頃は雑誌でも広告でも機材のレンタル費用を経費として請求することができたんです。2〜3年くらいしてデジタルカメラのレンタル代の請求はNGになり、特に出版社はフィルムカメラのフォトグラファーには発注しないという感じになって…。いよいよデジタルカメラを買わないといけない状況になり、6×6判から6×4.5判になることに引っかかる部分もありましたが、ハッセルブラッドの「H3D II」を購入しました。

「H3D II」を買ってすぐに、「デジタルカメラを持っていないフォトグラファーには依頼しない」と宣言されたメンズファッション誌の副編集長に会いに行きました。デジタルバックを買ったことや、今後のやりたい方向性を直談判したんです。結果、その月は特集4 本くらいの撮影依頼がありました。「H3D II」ってすごいなって思いましたね。特に、当時はデジタルバックを所有しているフォトグラファーは本当にトップの売れている方たちくらいしかいない時代で、20 代の若手フォトグラファーはデジタル一眼レフが主流。そういう風潮の中で、独立して数年の若手が中判のデジタルバックを持っているぞと噂になっていたそうなんです。その噂が良い方向に作用してくれたのだと思います。

−当時は必要な時にレンタルして使うという人が多かったですよね。

そうでしたね。最近はカメラにこだわらない人が増えてきたように感じます。

僕、写真以上に道具としてのモノが好きなんですよ。だから借りたカメラだと気持ちが入らなくて。所有しないと愛着って湧いてこないのに、機材に興味がないと聞くと「なぜ?」と思ってしまいます。僕なんて、あまり使う機会がないとわかっていても300mmレンズを買っちゃうくらいですからね(笑)。

ファッションの表現の手段として望遠レンズ(長玉)を使うことがたまにあるのですが、長玉を使う上では35mm判のほうが焦点距離の振り幅があるので35mm判を使っていました。でもやっぱりハッセルブラッドで撮りたいなという思いがあって。最初は300mmをレンタルして使ってたんですけど全然テンションが上がらなくて、結局買ってしまったんです。

カメラボディはどんどん変わっていきますが、レンズはある意味、普遍的なもの。だからレンズは無理してでも良いものを買うようにしています。やはり良い道具は長く使えますし、表現の幅も広げてくれますから。

−好きなレンズ、使用頻度が高いレンズを教えてください。

基本的に人物撮影が多いのですが、中判カメラの80mmレンズって僕の感覚だと少し広く感じるので、100mmを標準レンズとしてよく使っています。膝より上を撮影するようなアングルの時はほぼ150mmレンズ。100mmと150mmはサブとして2本目も持っていたほうがいいんじゃないかっていうくらい使用頻度が高いです。

「エクラ」2019 年9 月号(雑誌・集英社)

SNS等でモノが好きな「モノ愛」を発信し続けていたことがきっかけとなり、最近ではジュエリーのブツ撮りの依頼を受けるようになってきました。いわゆるブツ撮りのライティングをした堅い表現ではなくて、自然な雰囲気の中でジュエリーを表現したいという依頼が多いです。時代の流行りもあって、特にファッション雑誌やファッションブランドなどでは自然な表現のブツ撮りが好まれる傾向があります。

ブツ撮りの仕事のおかげで、それまであまり出番のなかった120mmマクロを使う機会が増えました。あとStay Homeで時間があった際、ずっとやりたいと思っていた石拾いに行って、石のポートレートを120mmマクロで撮り始めました。Instagramにアップしているのですが、今後も撮りためていって何か形にしたいなと思っています。

−ユニクロの作品は膝上ショットなので150mmレンズですか?

キャンペーン広告で大きいサイズにもなるというお話だったので、1 億画素の「H6D-100c」+150mmレンズで撮っています。

この作品は背景のグラデーションにこだわりました。ヒートテックの広告写真なので、背景のグラデーションを熱が放射しているようなイメージにしたいと思ったんです。しかも中心から均一的に放射しているグラデーションではなくて、人から発する熱のように見えるよう、少し歪ませたくて。でも写真のストロボライティングでは色をコンマでコントロールすることは難しいので、映像の仕事でよく組んでいる照明部隊の方たちにお願いしました。

掲載カットの背景色は「赤—オレンジ」ですが、その他にも「ピンク−紫」など数パターンのグラデーションがあったので、かなり大変でした。しかも1名バージョンだけでなく3名バージョンもあって。3名だと中心の明るい部分を広くするためにかなり微妙なコントロールが必要になるんです。映像の照明の方たちと相談しながら、背景表現にとことんこだわって撮りました。こういうグラデーションって印刷がすごく難しくて、解像度の低いカメラだとすぐにジャギってしまうんです。「H6D-100c」で撮ったグラデーションは美しかったですね。満足のいく仕上がりになりました。

−サムネール画像もハッセルブラッドで撮っていると伺いました。

昨年末から始まったYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」のサムネールのことですね。チャンネルの立ち上げから博報堂のチームと一緒にやらせてもらっていて、すでに100万人ものチャンネル登録者数がいる今伸びている音楽コンテンツです。実際に視聴していただくとわかっていただけると思うのですが、「THE FIRST TAKE」では極限まで演出を削ぎ落としていて、一発撮りで撮影しています。アーティストはミスすることが許されないため、映像からも緊張感がひしひしと伝わってくると思います。

LiSA - 紅蓮華 / THE FIRST TAKE

僕は映像とサムネール画像などのグラフィックを撮っていて、Web 用のサムネールなのでそこまで解像度はいらないのですが、あえて「H6D-50c」で撮っています。グラフィックのルールは白い背景で撮ることだけ。歌の録音後に写真を撮るので、歌っている姿を見てインスピレーションでその場でライティングを決めていきます。そのため、アーティストによってライティングが少しずつ違うんです。白バックで統一感はありますが、1枚1枚見たら写真のテイストが違うので、サムネールだけでも楽しんでもらえるんじゃないかなって思います。嬉しいことに、サムネールがかっこいいと話題になっているそうなんですよ。あんな小さなサイズのサムネールで人を惹きつけるためには、写真力が重要だと思うんですよね。だからハッセルブラッドで撮る。それに、実力のある方たちを撮らせてもらっているのに、サムネールだからと言って軽く撮ることはできません。思い入れのあるものとしてちゃんと残したくて。僕のアーカイブとして作品シリーズにまとめて、いつか写真展をしたいなと思っています。

−雑誌の撮影ではディレクションもされているそうですね。

グリーンの大理石の上に多肉植物とジュエリーを置いて撮った作品は、カルティエのジュエリーの仕事で、120mmマクロで撮っています。撮影前にスタイリストと話し合うこともありますが、基本的にエディトリアルではフォトグラファーがどう撮りたいかを考えてディレクションすることが多いですね。

「婦人画報」2019 年4 月号

シンプルって簡単そうに見えますが、記憶に残るシンプルってシンプルを突き詰めていかないとダメだからすごく難しい。記憶に残るシンプルにするためにはどうすればいいのかということをいつも考えています。例えば、照明、アングル、表現のエフェクトなど、(一般的なイメージとしての)シンプルの普遍を超えないように気をつけたり。でも人が見ていいなと思えるポイントは自分の感覚を信じるしかないんですけどね。その感覚の部分が劣化していかないように普段から意識しています。

−「モノ愛」つながりで生まれたお仕事は他にもありますか?

石川県小松市にあるセレクトショップ「PHAETON」のオーナーがものすごいモノ好きな方で、「モノ愛」つながりで数年前からお店のカタログを撮らせてもらっています。今回からは服を紹介するショップカタログではなく、金沢・小松・加賀エリアの豊かな自然、文化、歴史も含めた情報を発信しようということになり、「大勉強」という1 冊の雑誌として創刊しました。この作品は、金沢の美術館でファッションシュートした作品の中の1枚ですが、街や建造物の歴史とファッションをリンクさせながら撮っています。

大勉強 by PHAETON

モノを愛でていたらブツ撮りの仕事がきて、文化や歴史などを発信するような本作りにつながり、今っぽいYouTubeの仕事までできている。いろんなことが線でつながって、昔よりも自分がやっていることに説得力が出てきたように感じています。趣味や好きなことと仕事がつながるようになってきたのは、所有する喜びを教えてくれたハッセルブラッドという美しい道具の影響が大きかったと思います。

−長山さんと言えばスーツというイメージがあります。

3年くらい前から毎日スーツを着るようになりました。もともとメンズファッションの撮影が多かったのですが、どちらかというとカジュアル系が多かったんです。スーツを着るようになってからは、大人寄りのメンズファッションの撮影が増えてきました。

MEN'S Precious 2020 Spring

僕の中で「MEN’S Precious」はメンズファッション誌の中でも特別で、表紙にある「こだわる男のモノ語りマガジン」からもわかるように、モノ好きな人がモノ好きな人に向けて作った雑誌なんです。この雑誌のニッチな部分と、スーツ好きの僕が「モノ愛」という部分でつながったんです。この作品は、表紙を撮る予定ではなかったカットの写真から表紙になったもので、非常に思い入れがあります。「ここぞ」という時にはやはりハッセルブラッドなんですよね。

−今後、ハッセルブラッドに期待することはありますか?

強いて言うなら、6×6デジタルのスクエアフォーマットがほしいですね。ハッセルユーザーはみんなそれを望んでいると思います。大人気のInstagramやWebの小売店のサムネールなど、さまざまなところで正方形の写真をよく見かけます。ハッセルブラッドの強みを活かせるチャンスだと思うんですよね。ハッセルブラッドしかできないこと。6×6デジタルのスクエアフォーマットが出たら絶対に買うので期待して待っています!

−フォトグラファーとして仕事をしていく上で、長山さんが大切にしていることを教えてください。

さまざまな業種で数百年以上続く老舗店がありますが、こんなに時代が変わってもなぜ残っているのか、求められているのか、その答えは「品」であるという話を聞いたことがあります。どんな業種でもお客さまから長く求めてもらうためには「品」が必要で、でも「品」の表現の仕方は人それぞれですし、絶対の正解もありません。受け取り手側がどう思うかによっても変わります。

じゃあ、どうすればいいのか。それは日々の行動や会話、生活スタイルから滲み出てくるものだと思うんです。自分の好きなものから「品」が生まれるとするなら、そこを見てもらうしかない。僕の場合、何かを選んだら、それを選んだ理由を言えるように日頃から意識するようにしています。そこから「こだわり」や「キャラ」が生まれてきて、「品」へとつながっていく。何気なく選んでいたことをすべて意味あるものに変えていくということが、プロのフォトグラファーとして重要なことだと思います。その部分を大切にしていけば、「選ばれるフォトグラファー」になっていくと思うんですよね。

−最後に、今後の予定について教えてください。

コロナ禍におけるStay Home期間は、身近なことや自分の足元を見ることができる良い機会になりました。写真に対して今の自分はどんな立ち位置なのかと考えた時、まだまだだなと。今一度、フォトグラファーとして固まってきた考え方をより成熟させること、より丁寧に向き合うことをしていこうと思いました。そういう一つ一つのことを、仕事や個のメディアを通して発信していきたいと思っています。

【プロフィール】

長山一樹

2001年 株式会社麻布スタジオ入社

2004年 守本勝英氏に師事

2007年 独立 S-14 に所属

ファッションや広告、フォトブックなどコマーシャル界の第一線で活躍。また、ハッセルブラッドのV・H・X すべてのシステムを使いこなす。

Web:https://www.ngympicture.com

Instagram:https://www.instagram.com/kazuki_nagayama/

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