HASSELBLAD DIARY<スペシャル インタビュー> 土屋 航 × Hasselblad 907X SE

土屋 航

2020-06-19

ハッセルブラッドを愛し、ハッセルブラッドで自由な表現にチャレンジし続けるフォトグラファーたちがいる。そんな彼らに、フォトグラファーとしての思い、ハッセルブラッドへの思いなどをインタビュー。 第四回目は、カルチャー誌などを中心に、コレクションのバックステージやファッションブランドのカタログなどで活躍する土屋 航さん。

「絶滅に対抗するささやかな祈り」より「千畳敷の石」|「CFV Ⅱ 50C」+「500C/M」+「ディスタゴン 60mm」

−フォトグラファーを目指すようになったきっかけを教えてください。

昔からアメリカに強い憧れがあってアメリカ文学やニューシネマ映画とともに育ち、その影響からアメリカの大学に進学することにしました。生物学部だったのですが基礎教養でアートの授業があって、コンパクトデジタルカメラを持っていたので写真のクラスをとってみたんです。当時は300万画素程度のコンデジが一般にも浸透してきたようなデジタル過渡期で、デジタル技術が学べるのかなって思って。でも実際はモノクロの現像やプリントなどを学ぶようなアナログの内容でした。想像していた内容とは違いましたがすごく面白くて、フィルムカメラにどんどんはまっていきました。

ある時、写真学科の教授から「プロの写真家になれる生徒は数少ないけれど、チャンスがあるかもしれないよ」と言われ、それを鵜呑みにしてしまって(笑)。生物学部を卒業後、少し学校に残って写真学科も卒業しました。卒業後は、写真を生業にできるかどうかもわかりませんでしたが、ニューヨークに行ったら何とかなるかなと思い、向かいました。ちょうどファッション・ウィークの時期でNY コレクションが開かれていて、そこにカメラを持って潜り込んでみたんです。大学では商業写真ではなく、芸術や学術的な写真の勉強がメインだったので、実践的な技術や知識があまりないのに…。今考えると無謀ですよね(笑)。

僕のように潜り込むような人ってなかなかいないみたいで、面白がって声をかけてくれたフォトグラファーがいました。「お金もないし、とりあえず潜り込んでみたんだよね」という話をしたら、NY ファッション・ウィークの仕事を振っていただくことになって。驚きの展開でしたね。

NY が終わると、ミラノ、パリと続いていくのですが、声をかけてくれた人の知り合いがパリコレを撮っているというので、僕も付いて行ったんです。勢いでパリに行ったことで、思いがけずにフォトグラファーとしてのキャリアがスタートしました。

この出会いとは別に、NY ファッション・ウィークの会場外で、あるアメリカ人にスナップされたことで仕事につながっていったこともあります。当時はおしゃれな人のスナップ写真を撮っているブロガーが会場外にたくさんいたんですよね。今で言うストリートスタイルフォトグラファーの方たちです。パリでもまた同じ方からスナップされて、「カメラを片手に何をやっているんだ?」と声をかけられ、ニューヨークで一緒に食事をすることになったんです。

彼らはフォトグラファーですが、おしゃれな人たちをスナップすることを得意としているので、「大手ブランドのWeb 広告の仕事があるんだけど、スナップではないので自分の代わりにやってくれないか?」と相談を受けたんです。ここでもまた人との出会いによって大きなブランドの仕事ができることになって。目標を持ってフォトグラファーになりましたが、人との出会い、つながりによって今のフォトグラファーとしての立場ができていった感じなんです。だから、いまだにファッション・ウィークの撮影はしています。僕の大切な原点なので。

−ハッセルブラッドはいつ頃から使い始めたのでしょうか?

大学生の頃です。ハッセルブラッドの歴史はもちろん、カメラの性能、レンズの良さ、形の美しさなど、調べれば調べるほど憧れが強くなり、ボロボロの「500C/M」を購入して使っていました。アメリカって安いんですよね。ちょうどデジタルカメラが出始めた時期だったこともあって、フィルムカメラの価格がさらに下がっていたんです。日本に帰国後も「500C/M」は使い続けています。

−デジタルカメラはいつ頃から使われていますか?

2 年くらい前まではすべてフィルムで撮っていましたが、今はデジタル撮影もしています。デジタルカメラ自体はいろいろと持ってはいたのですが、愛用している「500C/M」をデジタルで使いたくて、だいぶ前から試行錯誤を繰り返していました。でも他社のデジタルバックにつけようとすると、ケーブルでレンズシャッターとデジタルバックを接続して、無理やりアナログとデジタルを接続させるので、とにかくエラーが出やすくて…。それが嫌だったんですよね。すでにフィルムでの撮影スタイルができあがっていたので、無理してデジタルを使うことはないかなと思って積極的に手を出すことはしていませんでした。

ある時、後輩の「H5D」を使わせてもらう機会があり、エラーは出ないし、フィルムに近い感覚でも使えるし、すごくデジタル的な感覚でも使えることに驚きましたね。センサーサイズが大きくてビット数も多いから、レタッチ加工に耐え得ることにも魅力を感じました。後輩に「H5D」を貸してもらいながら行き着いたのが6000 万画素の「H4D-60」でした。

「H4D-60」はCCD の中で一番大きなセンサーサイズなんです。6×4.5 判のほぼフルサイズというのは、確かハッセルブラッドと1〜2 社くらいしかありません。そこが気に入って購入しました。1 億画素クラスになるとセンサーの違いは気にならなくなるかもしれませんが、5000〜6000 万画素クラスだとCCD とCMOS の違いってフィルムの違いくらい好みが分かれます。CCD の色の深み、アンバーな色合いが自分の作風にフィットしていて好きなんですよね。

−「907X スペシャルエディション」も試されたと伺いました。

お借りする形で使わせていただきました。どんな撮影に使おうかなと思案する中で、「907X スペシャルエディション」の“往年のシステムでデジタル撮影ができるカメラ”という視点から見て、都会から和歌山の人里離れた町に移り住んで静かな生活を送っているファッションデザイナーの友人夫妻が思い浮かび、彼らが生活する家、街並み、彼ら自身を撮らせてもらうことにしました。

「絶滅に対抗するささやかな祈り」より「白浜町の夫婦」|「CFV Ⅱ 50C」+「500C/M」+「ディスタゴン 60mm」

まずは「CFV Ⅱ 50C」に「500C/M」をつけて使ってみたのですが、反応も良く、今までの古典的な手法でデジタル撮影ができることに感動しました。

それから「907X スペシャルエディション」での撮り方! ハッセルブラッドのカメラの形がミラーレスになったと思って使い始めたのですが、ファインダーがないので、胸の前で構えるような態勢になるんです。胸のあたりから撮ることでパースも出るし、カメラなのにまったく違うもので撮っているような感覚があってワクワクしました。ガラケーからスマホになったくらいの強い衝撃でしたね。カメラも一世代上に上がったんだなって。独特な質感もあって、使えば使うほどはまるカメラでした。

−伝統があるからこそできる、ハッセルブラッドらしい新しいカメラと言えそうですね。

フィルムバックに「CFV Ⅱ 50C」(デジタルバック部分)をつけてしまおうと考えること自体、長年の歴史と自社製品に対する誇りがあるからこそできることですよね。デジタルとアナログが融合できる機材を作ってくれるメーカーなんて、ハッセルブラッドの他にないと思います。5000 万画素と無理のないセンサーサイズだし、Phocus Mobile 2 にWi-Fi で飛ばせるので、機動力に優れた一番小さな中判デジタルカメラと言えるんじゃないかな。そこが「907X スペシャルエディション」の強みだと感じました。

−「907X スペシャルエディション」で撮り下ろしていただいた作品について教えてください。

主に、スナップ写真は「907X スペシャルエディション」+「XCD 4/45P」で、建物の中や人物は「CFV Ⅱ 50C」+「500C/M」+「ディスタゴン 60mm」の組み合わせで、三脚を使って撮影しました。

「絶滅に対抗するささやかな祈り」より「廃屋1」|「907X スペシャルエディション」+「XCD 4/45P」

「絶滅に対抗するささやかな祈り」より「玄関」|「CFV Ⅱ 50C」+「500C/M」+「ディスタゴン 60mm」

僕の作風でもあるのですが、アンダーめの露出で撮ることが好きです。XCD レンズのほうはシャープで彩度が高い印象を受けました。これだけ解像度が高いレンズをつけた中判デジタルを片手で持って、スナップ感覚で撮っていけることはすごいことだなって素直に思いました。ディスタゴン 60mm のほうもしっかり解像していますが、ノンコートなので柔らかい印象を受けました。「907X」と「CFV Ⅱ 50C」を介することで、新旧のレンズの使い分けができて写真表現の幅が広がるんじゃないかなって感じましたね。

「絶滅に対抗するささやかな祈り」より「女と扇風機」|「CFV Ⅱ 50C」+「500C/M」+「ディスタゴン 60mm」

友人夫妻が暮らす古民家の一室で、60mm のディスタゴンで撮ったものです。中判センサーの魅力って、表情や構図をしっかり汲み取って撮る際、人に訴えかける何かを表現できるところだと思うんです。この作品でも絞っているのに奥行きが出て、シャドウもつぶれず、服の繊維の感じから扇風機の金属の感じまでしっかり表現できていて満足の仕上がりです。

「絶滅に対抗するささやかな祈り」より「犬と鎖」|「907X スペシャルエディション」+「XCD 4/45P」

XCD レンズで撮ったスナップ作品ですが、犬の毛並みから首輪の鎖の質感までしっかり表現されていて、パッとスナップした写真でもここまでの質感表現が得られることに、ただただ驚きました。

「絶滅に対抗するささやかな祈り」より「屋根」|「907X スペシャルエディション」+「XCD 4/45P」

中判ではISO を上げることはほとんどありませんが、片手でスナップ撮影をしたかったのでISO1600 やISO3200 に上げて撮ってみました。ISO1600 ならノイズもほとんど出ないですし、想像以上にきれいでびっくりしました。ISO を上げることで表現できる幅が広がる。良い時代になってきましたね。

「絶滅に対抗するささやかな祈り」より「日置大浜」|「907X スペシャルエディション」+「XCD 4/45P」

夕暮れ時にISO を高感度に上げて、開放値近くまで開けて撮っています。波にピントが合って、だんだんぼけていく感じが中判らしくていいなと思いました。中判センサーの魅力って、撮影したままの画像データの美しさもそうですが、レタッチに耐えられるデータ量の多さも魅力のひとつです。

「絶滅に対抗するささやかな祈り」より「積み石」|「907X スペシャルエディション」+「XCD 4/45P」

こういう暗い夕暮れのシーンでスナップしても石の表情までしっかり表現できるのは、良いカメラ、良いレンズの証拠です。この作品を大きくプリントしたら、圧倒的な美しさに感動してもらえると思います。しかも三脚なしでスナップした作品だと知ったら、皆さん、絶対に驚きますよね。作品を作るための表現力を上げてくれるところがハッセルブラッドの魅力だと、改めて思いました。

−ハッセルブラッドに対しての要望などはありますか?

「907X」も「CFV Ⅱ 50C 」もそうですが、サスティナビリティというか、昔のカメラを再利用する(過去の資産を活かす)というところに大きな魅力を感じます。それって、レンズとカメラボディとフィルムバックが分解できる優れたシステムを持つハッセルブラッドだからこそできることですから。メーカーとして500 シリーズはもう作っていないのに、「907X」のようなカメラボディを作ってしまうなんて本当にすごいです! ユーザーを切り捨てない姿勢が伝わってきますし、環境面から見てもすごく良いなと思います。今まで通りの立ち位置で、ハッセルブラッドらしさを追及していってほしいですね。

あと、若い人たちにずっと伝えたいと思っていたことがあるんです。ハッセルブラッドに憧れているのであれば、ローンを組んででも手に入れるべきだと思います。自分のテンションが上がるカメラを使ったほうが、写真に対する姿勢においても、仕事に対する姿勢においても、絶対に良い影響が出ますから。良い道具を使うことは、作品の世界観を広げる手助けを確実にしてくれると思います。

−プロのフォトグラファーとして重要なことは何だと思いますか?

後輩たちにもよく聞かれますが、やはり自分のスタイルを作ることだと思います。誰かのコピーはすぐにできますが、オリジナルには絶対に勝てません。「仕事がほしい」という前に、何がしたいのか、何をインプットして持っているのか、それをどう引き出すのかということをちゃんと考えていないと、何事にもつながらない気がします。

僕は人との出会いなど、かなりの部分を運で仕事をいただいてきたタイプの人間ですが、仕事を与えてくれるまわりの人たちが僕の何を面白がってくれたかというと、アメリカの片田舎で真面目に芸術写真の勉強をして、撮っていた作品はニューカラーやニュー・トポグラフィックスのようなアメリカの荒廃した暗い写真ばかりなのに、ファッションフォトをやろうとしている。そういうギャップの部分だと思うんです。若い時に多くの本を読んだり、映画を観たり、音楽を聴いたりしながら、どれだけインプットしてきたかが重要なんじゃないかなって。

写真ってアウトプットの最終手段なので、毎回本当に苦しい。どんなフォトグラファーでも苦しいと思います。今回の作品も試行錯誤を繰り返して撮れたもの。苦しさから逃げずに向き合い続け、これまで培ってきた経験や自分の中のインプットをすべて吐き出すことで生まれた写真は、必ず評価されます。その姿勢こそが仕事につながる近道だと思います。

「絶滅に対抗するささやかな祈り」より「助手席のカバー」|「907X スペシャルエディション」+「XCD 4/45P」

「絶滅に対抗するささやかな祈り」より「男と鷲」|「CFV Ⅱ 50C」+「500C/M」+「ディスタゴン 60mm」

【プロフィール】

土屋 航

高校卒業後渡米。

アメリカの大学を卒業後、ニューヨークでフォトグラファーとしてのキャリアをスタートさせる。

帰国後は国内外のカルチャー/ファッション誌を中心に、ファッションショーのランウェイやバックステージ、ブランドのカタログ撮影などを中心に活躍。

Web:https://kotsuchiya.com

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