<スペシャル インタビュー> 上田晃司 × Hasselblad X1D-50c

2020-05-01

ハッセルブラッドを愛し、ハッセルブラッドで自由な表現にチャレンジし続けるフォトグラファーたちがいる。 そんな彼らに、フォトグラファーとしての思い、ハッセルブラッドへの思いなどをインタビューした。 第一回目は、世界中の街や風景を撮り続けている上田晃司さん。

キューバの夕暮れ。逆光シーンを絞り開放の手持ちで撮影している。手前の人物がつぶれないことに驚く。「X1D-50c」は写真の世界観を広げてくれる。

−フォトグラファーを目指すきっかけを教えてください。

日本にいる頃から趣味で写真を撮っていて、留学先の米国サンフランシスコにもカメラを持って行っていました。専攻はブロードキャスティングだったのですが、アートの授業で写真を選択していて、教えてくれた教授がハッセルブラッドの500C/M を持っていたんです。初めて触らせてもらった時には「この面白いカメラはなんだ?」と驚きましたね。それですぐに中古で500C/M を購入しました。今思えば、大学生の時にはハッセルブラッドに出会っていました。

映像から写真にシフトする転機となったのが、写真家の塙 真一さんのアメリカロケに同行したことです。最終的には自分の師匠となった方なのですが、卒業後の進路を考えている時期に、SNS を通して「アメリカロケに良い場所はありませんか?」と質問されていて、ちょうど夏休みだったので僕が車で案内することになったんです。同行する中で、写真家についていろいろと教えていただくことができたのは大きかったですね。大所帯で撮影する映像と違って、ひとりでフレキシブルに動いている姿が非常に印象的でした。

その頃、何日も徹夜して仕上げるような映像制作のやり方に少し疲弊していて、映像系の会社に就職活動もしていたのですが、心のどこかに引っかかりがあって…。悩んでいる時にふと「写真なら世話できるよ」という塙さんの言葉を思い出したんです。塙さんのように楽しそうにフレキシブルに働きたいと思い、帰国後、思い切ってアシスタントにつかせていただくことにしました。結局は、この決断が写真家を目指す大きなきっかけとなりました。

「X1D-50c」を構える上田さん。コンパクトなサイズ感はスナップフォトとの相性が良い。

−お仕事柄、さまざまなカメラを使う機会が多いと思いますが、ハッセルブラッドを使い続ける理由を教えてください。

オンリーワンのカメラだからです。6×6 フォーマットのカメラは他にもたくさんありますが、ハッセルブラッドのカメラは美しさと道具としての魅力が詰まっていて、撮影に集中できるシンプルさが気に入っています。みんながハッセルブラッドに求めることって、小さなセンサーではなくて大きなセンサーだと思うんですよ。世界初のミラーレスの中判デジタルカメラ「X1D-50c」や、中判カメラボディで最軽量の「907X」が出た時は、「使ってみたい!」と大騒ぎしてしまいました。

−最近よく使っているカメラとレンズを教えてください。

海外の旅写真の仕事が多いので、最近ではコンパクトな「X1D-50c」とXCD レンズの組み合わせをよく使っています。21mm から135mm までラインナップが豊富ですが、最初の頃は「XCD 3,5/45」をよく使っていました。

35mm 換算で50mm 相当の標準レンズ「XCD 2,8/65」が発売されてからは、65mm レンズのほうを使うことが多くなりましたね。

「X1D-50c」と「XCD 2,8/65」を抱えて香港へ。僕の場合、実焦点分の1 くらいで最低速度を切るようにしているので、ここでは1/60 秒に設定。レンズシャッターだから1/60 秒あれば手持ち撮影でもブレない。

ハッセルブラッドはフィルム時代からレンズシャッターを採用しているため、ストロボと全速同調できます。Xシリーズは(ストロボの閃光速度によって若干落ちはありますが)基本的に1/2000 秒まで同調できるので、日中シンクロの撮影にかなり使えます。

一般的なデジタルカメラでは1/120 秒や1/250 秒程度であること、一番高いフラッグシップ機でも1/320 秒程度であることを考えると、1/2000 秒まで同調できるのはかなりのアドバンテージだと思います。ストロボのワットで言うと1000W ほど違うわけですから。

最近ではハイスピードシンクロが主流になっていますが、同調速度内でストロボを焚き続けるハイスピードシンクロだと、どうしてもムラが生じてしまいます。一発で焚いたものとハイスピードシンクロでは光の質が変わるんですよね。ファッションフォトの撮影である程度のタイミングで撮っていくタイプの方ならXシリーズもおすすめです。

1/2000 秒の日中シンクロで撮影。一発撮影でもこれだけの光量と質を得られる。ポートレートはもちろん、自然風景などにも使えば表現の幅がぐんと広がる。

「X1D-50c」だけでなく、ハッセルブラッドで撮った写真には“深み”を感じることができます。例えば、キューバなど常夏の国ではどこを撮ってもコントラストが強く、彩度が高い。撮影環境としては非常にシビアですが、ハイライトからアンダーまで再現しつつ、立体感やツヤ感、そして色の奥深さまで表現することができます。RAW データがものすごい情報量を持っているんです。

モニタ上で白飛びや黒つぶれしているように見えても、RAW 上にはちゃんと情報が残っている。この安心感はデジタル一眼レフでは味わえません。

光と陰のコントラストが高く、鮮やかな色彩が印象的なキューバの街並み。RAW現像時に、手前のシャドウ部を締めることも明るくすることもできる。撮影者の意図を反映できる安心感は大きい。今の時代、「後で自由に調整できる」というのは重要なこと。

−中判デジタルカメラですがコンパクトなサイズ感はスナップフォトに向いていそうですね。

僕、ロケ先で出会った現地の方とおしゃべりしながら撮っていくことが大好きで、バーに行って面白そうな人が来たら話しかけて撮らせてもらうんです。でも見た目が大きいカメラだと自然な表情を撮ることはどうしても難しくて…。

その点、「X1D-50c」と「XCD 3,5/45」の組み合わせは抜群ですね。サイズ感が小さいカメラなので相手に威圧感を与えることはないですし、45mm なのでかなり近くまで被写体に寄ることができます。被写体との一体感を表現することができる上に、ラージフォーマットという迫力も出せる。人に威圧感を与えずに街に溶け込める「X1D-50c」は、スナップカメラとしての条件をすべて満たしていると言えます。

キューバの街を歩いていると、何度も遭遇した新聞売りのおじさんを「XCD 3,5/45」で撮影。顔にはピントがしっかりきているが、手前は柔らかくぼけている。ストリートスナップポートレートにすごく良いレンズ。

−中判デジタルカメラは高感度に弱いイメージがあります。

ISO100 でも厳しいカメラもありますよね。でも「X1D-50c」は高感度に強く、ISO3200 でも充分使えます。特に僕の場合はスナップが多いので、ノイズ感は気になりません。ソフトウェアの性能も向上していて、ノイズリダクションがかなり効くので躊躇なく高感度撮影ができるのは便利です。「X1D-50c」の強みである長時間露光を使った撮影もおすすめです。ノイズが出ないですし、肉眼をはるかに超えた表現が可能になる。使ってみたら、「道具ひとつでこんなにも表現に差がつくのか」ときっと驚くと思います。しかも気が利いているカメラで、背面の液晶ディスプレイにカウントダウンが表示されるんですよ。これは便利でした。

香港の夜景を45 秒の長時間露光で三脚撮影。f9 まで絞り、焦点距離は90mm(71mm 相当)だが、隅々までシャープに写っている。XCD レンズは絞り羽根の形状がきれいなので、光条もちょうど良い感じに出ている。

写真教室でも伝えるようにしているのですが、若い時から良い道具をぜひ知ってほしい。機材選択はひとつのカメラ、レンズだけでこなせるわけではありません。用途に合った道具を選択できる目が必要です。例えば「暗部が出ないから諦めよう」ではなくて、「暗部が出るカメラを使おう」にできれば、表現したいことを表現できるわけです。

また、一般的には画素数で判断してしまいがちですが、画素数が同じでもセンサーの大きさによって得られる画像データは変わります。センサーが大きいとその分、受光が大きくなるので、レンズのボケ味も変わってきます。中判デジタルカメラで撮った写真の立体感は本当にすごい。Xシリーズは写真・映像機材のレンタルショップでレンタルすることもできるので、実際に使ってすごさを体感してみてほしいです。

トラベル用の三脚を使って、ハワイの海に沈む夕日を長時間露光で撮影。一般的には長時間露光には大きな三脚を使うが、「X1D-50c」はボディが軽いので小さい三脚でも問題ない。

−これからのハッセルブラッドに期待することは? また要望があれば教えてください。

ハッセルブラッドのカメラは、写真機としての魅力がたくさん詰まっています。その反面、とても学び甲斐がある。学べば学ぶほど驚きの結果を残すことができます。だからこれからも「クリエイトする力を育ててくれるカメラ」を作り出していってほしいですね。

「X1D-50c」から「X1D II 50c」になって、かなり進化したなと感じています。例を挙げ出したら切りがありませんが、背面液晶ディスプレイは驚くくらいきれいで使い勝手が良いです。撮影という観点から見たら非常に進化していると思います。あえて言うなら、僕はスナップフォトを撮ることが多いので、起動時間がもう少し短くなると嬉しいですね。

−最後に、今後の予定を教えてください。

写真を生業にしている以上、一般の方が目にする機会が少ない場所を旅写真のひとつとしてお見せしたくて、今年はスバルやトンガなど旅先としてあまり選ばないような国に行きたいと考えていました。でも世界的にこのような状況なので、落ち着いたらゆっくり行こうと思います。

なかなか思うように写真を撮りに行くことはできませんが、ステイホームしながらでも写真が楽しめるように、YouTube などを通してカメラや写真の魅力をどんどん発信していきたいと考えています。楽しみにしていてください。

【プロフィール】

上田晃司

米国サンフランシスコに留学し、写真と映像を学ぶ。現地滞在中からテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家・塙 真一氏のアシスタントを経て、フォトグラファーとして活動開始。現在は雑誌、広告を中心に活動。

ライフワークとして世界中の街風景やそこで暮らす人々を撮影。月1 回のペースで世界の街を訪れて撮影をしている。近年では、写真教室の講師や講演、書籍の執筆活動も行っている。Hasselblad 2015 ローカルアンバサダー。

Web:https://www.koji-ueda.com

YouTube「写真家夫婦上田家」:

https://www.youtube.com/channel/UCCJwhcZZ9YFtAXVnhXM7D9Q

Twitter:https://twitter.com/kufoto/with_replies

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